2007年03月28日

久しぶりの更新です。

さて、今回はオランダの化学農薬に対する考え方を述べようと思う。

私は2002年3月から翌2003年3月までの13ヶ月間、オランダで農業研修をしていた。
オランダの農業を一言で言えば「合理的」であろうか。とにかく何をやるにしても合理的な物の考え方をする。

私の研修先はオランダの首都アムステルダムから南に電車で2時間ほど行ったところ。ベルギーとの国境が近いローゼンダール近郊のパプリカ農家だった。
研修先に初めて行ってまず衝撃を受けたのはそのでかさ。
天井が高いオランダ式のガラス温室が1.7ha。もちろん連棟で、真ん中にある通路で100m走が余裕で出来るほどの広さだった。熱源は温水パイプを通路ごとにレールのように敷き、その上を従業員が乗った電動の滑車が動いてパプリカを収穫していた。栽培方法はロックウール栽培で、潅水や温室内の温度調整はパソコンで全て操作できるようになっていた。パプリカ農家というより、パプリカ生産工場と言った方が良いかもしれない。

そんな農場で害虫防除に使われていたのが「生物農薬」であった。
生物農薬とは、害虫を捕食したり、寄生したり、感染したり・・・要するに害虫にとっての天敵を利用した生きた農薬(?)である。
(身近な例を挙げれば、テントウムシはアブラムシを食べるので、アブラムシの天敵はテントウムシということになる。)
天敵を利用した害虫防除は、オランダの温室栽培農家であれば8割以上が利用していると農場主がいっていた。
なぜオランダでは天敵を利用した害虫防除が主流になっているのか?
それは「合理的」であるオランダ人の考えに合っているからである。

農場主に「何で天敵を利用しているの?化学農薬は使わないの?」と聞いたら次のような答えが返ってきた。

「昔は化学農薬が主流だったんだが、今はほとんど使わない。なぜかって?だって化学農薬を使うと収穫できない期間が出来るだろ。それじゃあ収穫が追いつかないよ。それに化学農薬は害虫が発生するたびに何回も使わなきゃいけないだろ?そんなの労働時間の無駄だし、体に悪いだろ。
 その点、天敵を利用した防除だったら楽だよ。毎日収穫できるし、防除に時間を割かなくていいんだ。だって天敵なら人間と違って24時間働いてくれるだから。化学農薬を使わないから人間にはもちろん、パプリカにも天敵にも安心・安全。良いことばっかだろ?」

なるほど。実に「合理的」な考えだ。
ただそこで気になったのはコストの問題。
私は「生物農薬は値段が高い」というイメージを持っていた。実際、日本では化学農薬の何倍も値段がかかる。そのことが気になって農場主に聞いてみたら次のような答えが返ってきた。

「コスト?そりゃかかるけど、年間トータルで考えたら化学農薬を使った場合とあんまり変わらないな。・・・え、日本は生物農薬がそんなに高いのか?オランダの生物農薬は自国で生産しているからそんなにかからないよ。それに生物農薬の会社、うちは『コパート社』の生物農薬を使っているが、サービスが充実しているんだ。コパート社は顧客に対して生物農薬のアドバイザーを派遣してくれるんだ。生物農薬を使用し始めた初めは1ヵ月は1週間に1回、パプリカの生長にあわせて2週間に1回程度アドバイザーが来て、天敵生物の様子をチェックしてアドバイスをしてくれたり、こちらの質問に答えてくれる。だから生物農薬の使い方を失敗することがない。これだけのサービスも含めて化学農薬とコストが変わらなかったら、当然天敵防除を選択するだろう?」

この答えを聞いて俺は、「合理的でなくても天敵防除を選択するだろうな」と思った。
また、日本で生物農薬の普及が、なぜ遅れているかがわかった気がする。

日本で生物農薬が遅れている理由は「コスト」と「使用者の情報不足」によるものだと思う。
オランダのコパート社はその両方をクリヤしているから、これだけオランダの農家に支持されているのだ。

日本では残念ながら「コスト」と「情報提供サービス」の二つをクリアしている企業はなかなかないように思える。もし生物農薬をビジネスにするのであれば「コパート社」を見習ってほしい。農家が必要としているのは「物」だけでない。「情報」も必要なのだ。

<その8に続く>


at 05:19│コメント(0)食の安全を考えよう! │

コメントする

名前
 
  絵文字