2007年03月12日
農作物に害虫がつくと、植物の元気がなくなる。栄養を吸い取ったり、光合成に必要な葉を食べられたりするからだ。
そこで「植物を守るため」、というか、「人にとって価値ある植物を守るため」に農薬が使われる。
化学農薬は作業面だけでみれば、あれほど楽な害虫対策はない。化学農薬を水に溶かして霧吹きなんかでシュシュとするだけで、人間にとって憎らしい害虫をやっつけられるからだ。
戦後から化学農薬が普及したのは「作業が楽」ということが非常に大きい。
だが、人間にとっての害虫がこのままでいるわけがない。自分たちを守るための対応をしたのだ。それは「薬品に対する抵抗性」である。
つまり、害虫を殺す有効成分に対して強くなる、または全く効かなくなることだ。これは「進化」と言ってもいいかもしれない。
何年か前、ある農家が化学農薬を使って害虫をやっつけていた。しかしだんだん農薬が効かなくなってきた気がした。散布ムラがあると思いさらに同じ化学農薬を使っていた。その後、その農薬が全く効かない害虫がでてきて、その作物を半分枯らしてしまった。
実はこの農家、就農したての私である。
当時、ハウスでパプリカ(カラーピーマン)を栽培していた。化学農薬の使用に関しては薬品のラベルを見て、その通りにやっていた。
ただ問題は、使用した化学農薬の商品名が違っても、有効成分が同じだったことだった。
今から考えると、自分は相当無知であった。
同じ有効成分を使うことにより、害虫(ここではアブラムシ)に抵抗性がついてしまうことを知らなかったからだ。
これを機に化学農薬の使用には十分注意するようになった。
最近これと同じようなことがトマト農家に起きて問題になっている。
トマトにとっては致命的な病気「黄化葉巻病(感染するとトマトがある程度大きくなってから、一気に葉が黄色くなり枯れてしまう。)」のウイルスを媒介する「シルバーリーフコナジラミ」という害虫が、度重なる農薬の散布によって「抵抗性」を持ってしまったのだ。
この「シルバーリーフコナジラミ」の中でも抵抗性をもっているタイプは特に「バイオQタイプ」と呼ばれてる。
現在「バイオQタイプ」に効く農薬はない。もっとも「バイオQタイプ」に効果がある農薬が開発されたとしても、同じように抵抗性がついてしまうと思うが・・・。
「バイオQタイプ」は九州のあるトマトの産地で発生し瞬く間に広がった。
初めは九州全域までだったが、地球温暖化の影響か、だんだんとその勢力を北上させ、ついに去年の末には関東全域で確認されるようになってきた。
それとともに、黄化葉巻病も広がっていきトマト生産者にとっては戦々恐々とする日々となっている。
ただ、これ以上広がらないようにするためには、いくつかの対策がある。
まず挙げられるのは、害虫をハウス内に侵入させないために、ハウスの側面や入り口に0.6ミリ以下の防虫ネットを張るという、物理的に防除する方法。
また、黄化葉巻病に抵抗性を持った品種の導入や、害虫の温床となるハウス周りの除草・残渣の処理などだ。ただこの対策はあくまでハウストマトの場合であり、雨よけ露地栽培や家庭菜園では抵抗品種ぐらいしか対策はない。(抵抗品種は病気を発病させないだけであって、ウイルスが入っても感染しているかわからないというデメリットがある。これによって逆にウイルスが広がるのではとの危惧する声もある。)
結局この問題は、化学農薬に頼り切った人間への自然からのしっぺ返しだろう。自然が害虫を介して人間に警告しているのだ。「あんまり図に乗ってんなよ」と。
さて、ここでこの問題の解決の糸口となるかはわからないが、ある農家(私)の後日談を述べよう。
アブラムシに抵抗性がつき、化学農薬での防除が出来なくなった私は、「いっそのこと、このままアブラムシはほっといて、どれだけパプリカが収穫できるか試してみよう。」と農薬の使用をあきらめ、ハウスのパプリカをそのままにした。
それから1週間、防除も何もしないでパプリカを収穫し続けた。アブラムシはますます増えハウス内はアブラムシだらけ。収穫に入った私の体中に無数のアブラムシがたかった。
2週間後。アブラムシの集まっているところ(「コロニー」と呼ばれる)で茶色のアブラムシがちらほら見え始める。初めは気にも留めなかったが徐々に増えているようだった。
3週間後。茶色のアブラムシが多く目に付くようになると同時に、ものすごく小さいハチの様な虫がアブラムシにたかっているのを見る。どこかで見覚えがあると思い、思い出してみる。あ、オランダでの研修中にみたアブラムシの天敵の「アブラバチ」だ。ということはこの茶色くなったアブラムシはマミー(アブラバチのさなぎ)か!
4週間後。ハウス内に「アブラバチ」が多く飛び回る。アブラムシの数は明らかに減る。茶色になったアブラムシには茶色いフワフワしたカビが生えはじめる。どうやらそのカビ(菌)は生きたアブラムシにも感染するようだ。これも天敵なのかも知れない。
5週間後。アブラムシは全滅とはいかないが、その数をかなり減らした。
アブラムシが減ると共にアブラバチの数も減ったような気がする。
完全に枯れたパプリカ以外は、樹勢を取り戻しつつあり、収量も上がってきたように思えた。葉の裏には元気なアブラムシよりも、茶色いカビに着かれ動かなくなったアブラムシが多くなっていた。
6週間後。ハウスの中には色々な虫が多くなってきた。害虫、天敵、その他の生物。また、ハウス内に生えた雑草にはアブラムシが多くいたが、パプリカが枯れることはもうなくなっていた。
7週間後。収穫を終了。農薬をやめてから、毎日収穫できたから収量も予想以上に上がった。
これは当時の俺にとっては、大きな失敗であると同時に、大きな発見だった。
この翌年からパプリカにかける農薬の回数が劇的に減ったのは言うまでもない。
化学農薬は確かに便利だ。しかし使えば使うほど、それだけ自然からのしっぺ返しがくるのだろう。自然の理は良く出来ている。
日本ではまだまだ化学農薬に頼っているところがある。
しかし、私が1年間研修に行ったオランダでは、天敵が確固たる地位を築き、化学農薬はもはや過去のものとなりつつある。
次はオランダの化学農薬に対する考え方を述べよう。
<その7に続く>
そこで「植物を守るため」、というか、「人にとって価値ある植物を守るため」に農薬が使われる。
化学農薬は作業面だけでみれば、あれほど楽な害虫対策はない。化学農薬を水に溶かして霧吹きなんかでシュシュとするだけで、人間にとって憎らしい害虫をやっつけられるからだ。
戦後から化学農薬が普及したのは「作業が楽」ということが非常に大きい。
だが、人間にとっての害虫がこのままでいるわけがない。自分たちを守るための対応をしたのだ。それは「薬品に対する抵抗性」である。
つまり、害虫を殺す有効成分に対して強くなる、または全く効かなくなることだ。これは「進化」と言ってもいいかもしれない。
何年か前、ある農家が化学農薬を使って害虫をやっつけていた。しかしだんだん農薬が効かなくなってきた気がした。散布ムラがあると思いさらに同じ化学農薬を使っていた。その後、その農薬が全く効かない害虫がでてきて、その作物を半分枯らしてしまった。
実はこの農家、就農したての私である。
当時、ハウスでパプリカ(カラーピーマン)を栽培していた。化学農薬の使用に関しては薬品のラベルを見て、その通りにやっていた。
ただ問題は、使用した化学農薬の商品名が違っても、有効成分が同じだったことだった。
今から考えると、自分は相当無知であった。
同じ有効成分を使うことにより、害虫(ここではアブラムシ)に抵抗性がついてしまうことを知らなかったからだ。
これを機に化学農薬の使用には十分注意するようになった。
最近これと同じようなことがトマト農家に起きて問題になっている。
トマトにとっては致命的な病気「黄化葉巻病(感染するとトマトがある程度大きくなってから、一気に葉が黄色くなり枯れてしまう。)」のウイルスを媒介する「シルバーリーフコナジラミ」という害虫が、度重なる農薬の散布によって「抵抗性」を持ってしまったのだ。
この「シルバーリーフコナジラミ」の中でも抵抗性をもっているタイプは特に「バイオQタイプ」と呼ばれてる。
現在「バイオQタイプ」に効く農薬はない。もっとも「バイオQタイプ」に効果がある農薬が開発されたとしても、同じように抵抗性がついてしまうと思うが・・・。
「バイオQタイプ」は九州のあるトマトの産地で発生し瞬く間に広がった。
初めは九州全域までだったが、地球温暖化の影響か、だんだんとその勢力を北上させ、ついに去年の末には関東全域で確認されるようになってきた。
それとともに、黄化葉巻病も広がっていきトマト生産者にとっては戦々恐々とする日々となっている。
ただ、これ以上広がらないようにするためには、いくつかの対策がある。
まず挙げられるのは、害虫をハウス内に侵入させないために、ハウスの側面や入り口に0.6ミリ以下の防虫ネットを張るという、物理的に防除する方法。
また、黄化葉巻病に抵抗性を持った品種の導入や、害虫の温床となるハウス周りの除草・残渣の処理などだ。ただこの対策はあくまでハウストマトの場合であり、雨よけ露地栽培や家庭菜園では抵抗品種ぐらいしか対策はない。(抵抗品種は病気を発病させないだけであって、ウイルスが入っても感染しているかわからないというデメリットがある。これによって逆にウイルスが広がるのではとの危惧する声もある。)
結局この問題は、化学農薬に頼り切った人間への自然からのしっぺ返しだろう。自然が害虫を介して人間に警告しているのだ。「あんまり図に乗ってんなよ」と。
さて、ここでこの問題の解決の糸口となるかはわからないが、ある農家(私)の後日談を述べよう。
アブラムシに抵抗性がつき、化学農薬での防除が出来なくなった私は、「いっそのこと、このままアブラムシはほっといて、どれだけパプリカが収穫できるか試してみよう。」と農薬の使用をあきらめ、ハウスのパプリカをそのままにした。
それから1週間、防除も何もしないでパプリカを収穫し続けた。アブラムシはますます増えハウス内はアブラムシだらけ。収穫に入った私の体中に無数のアブラムシがたかった。
2週間後。アブラムシの集まっているところ(「コロニー」と呼ばれる)で茶色のアブラムシがちらほら見え始める。初めは気にも留めなかったが徐々に増えているようだった。
3週間後。茶色のアブラムシが多く目に付くようになると同時に、ものすごく小さいハチの様な虫がアブラムシにたかっているのを見る。どこかで見覚えがあると思い、思い出してみる。あ、オランダでの研修中にみたアブラムシの天敵の「アブラバチ」だ。ということはこの茶色くなったアブラムシはマミー(アブラバチのさなぎ)か!
4週間後。ハウス内に「アブラバチ」が多く飛び回る。アブラムシの数は明らかに減る。茶色になったアブラムシには茶色いフワフワしたカビが生えはじめる。どうやらそのカビ(菌)は生きたアブラムシにも感染するようだ。これも天敵なのかも知れない。
5週間後。アブラムシは全滅とはいかないが、その数をかなり減らした。
アブラムシが減ると共にアブラバチの数も減ったような気がする。
完全に枯れたパプリカ以外は、樹勢を取り戻しつつあり、収量も上がってきたように思えた。葉の裏には元気なアブラムシよりも、茶色いカビに着かれ動かなくなったアブラムシが多くなっていた。
6週間後。ハウスの中には色々な虫が多くなってきた。害虫、天敵、その他の生物。また、ハウス内に生えた雑草にはアブラムシが多くいたが、パプリカが枯れることはもうなくなっていた。
7週間後。収穫を終了。農薬をやめてから、毎日収穫できたから収量も予想以上に上がった。
これは当時の俺にとっては、大きな失敗であると同時に、大きな発見だった。
この翌年からパプリカにかける農薬の回数が劇的に減ったのは言うまでもない。
化学農薬は確かに便利だ。しかし使えば使うほど、それだけ自然からのしっぺ返しがくるのだろう。自然の理は良く出来ている。
日本ではまだまだ化学農薬に頼っているところがある。
しかし、私が1年間研修に行ったオランダでは、天敵が確固たる地位を築き、化学農薬はもはや過去のものとなりつつある。
次はオランダの化学農薬に対する考え方を述べよう。
<その7に続く>